ゴブリンの強さ
2006年11月16日ゴブリンデッキがレガシー環境のメタゲームにおける頂点である事は周知だ。ゴブリンに勝てないデッキはレガシー環境において不完全であり、如何にしてゴブリンに勝つかがレガシー環境におけるデッキ構築の出発点である事は間違いない。ではなぜゴブリンデッキはここまで強いのか?今回はレガシー環境を考える上で必ず通る事になるこの問題について考察してみようと思う。
■1 マナベースの安定性
ゴブリンデッキは非常にマナベースの安定したデッキだ。デッキの基本部分が赤単色で構成されているので色事故が発生し難く、それ故に基本土地を多く投入出来るので不毛の大地に対する耐性も高い。数あるデッキの中で、《不毛の大地/Wasteland》と《リシャーダの港/Rishadan Port》を両方とも4枚搭載する事の出来る稀有なデッキであると言う事実もそれを裏付けている。
また、ゴブリンデッキは《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》と《霊気の薬瓶/AEther Vial》を搭載しているため、他のデッキと比べ基本マナが低くなっている事もマナベースを安定させている一因である。基本マナとは「そのデッキが過不足なく機能するために必要な最低限度のマナ」の事で、ゴブリンデッキの場合、少なくとも《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》をプレイ出来るマナまでは到達する必要があるため、本来ならば基本マナは最低でも4と言う事になる。しかし、《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》と《霊気の薬瓶/AEther Vial》の存在によってこの基本マナは大幅に抑えられ、デッキの安定性向上へと繋がっていくのである。
■2 マナ加速の存在
マナ加速をする事で本来プレイされる事を想定されているターンよりも早く呪文をプレイする事が出来、それだけゲームを有利に進める事が出来る。これがマナ加速と言う戦略の基本的な考え方だ。ゴブリンデッキにおいては前述した《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》と《霊気の薬瓶/AEther Vial》がそれに該当する訳だが、この二種はマナ加速カードとしての性能が他のカードと比べて格段に高いと言える。マナ加速と言えば本来緑の領分であるのだが、その緑でも1マナのマナ加速カードで加速できるのは1マナまでであり、さらに能力を起動するためにタップが必要なので、マナを出しつつ殴ると言った芸当は出来ない。だがゴブリンデッキにおけるこれら二種なら話は別である。
《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》は殴りつつ手札の中で最も重いゴブリンを場に出す事が出来る。《ゴブリンの女看守/Goblin Matron》を場に出せば3マナ、《包囲攻撃の司令官/Siege-Gang Commander》ならなんと5マナも生み出した計算になる。これだけの超大幅なマナ加速を行いつつ、それ自身がクロックとして機能すると言うのが素晴らしい。《霊気の薬瓶/AEther Vial》は《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》と違い、それ自身がクロックとなる事は無いが、攻撃を通す事無くマナ加速する事を可能にし、さらにインスタント・タイミングでのプレイによる奇襲効果をも実現するのは脅威と言う他無い。
本来マナ加速と言う戦略は、マナ加速カード自体が擬似的な土地以上の働きをしないため、どうしてもデッキの中に含まれる実質的なスペルの量が少なくなる傾向にある。そのため戦力の枯渇を招きやすく、息切れしやすいと言う弱点があった。ゴブリンデッキではその弱点を最小限に抑え、その上でマナ加速としても最高級の働きをする二種のカードこそ、ゴブリンデッキの強さの根幹を支える核であると言えるだろう。
■3 デッキ全体で構築されるシナジー
シナジーとは相乗効果の事で、カードとカードを組み合わせることで本来以上の強さを発揮する事を指す。シナジーには俗に「縦」と「横」の二つがあると言われている。縦のシナジーとはカード単体同士によるシナジーの事を指し、横のシナジーとはデッキに投入されている各カードが、他の各カードとそれぞれシナジーを形成する事を指す。前者の代表はマッドネスであり、後者の代表はスリヴァーだ。縦のシナジーを中心軸としたデッキはブン回ると無類の強さを発揮する反面、引きが噛み合わないと標準以下のパワーしか出せない事が多く、強さにムラがある事が多い。それに対し横のシナジーはデッキ全体がシナジーを形成しているために強さにムラがなく、安定して強いデッキになる事が多い。
ゴブリンデッキは横のシナジーを形成するデッキだ。言い換えれば、スリヴァーデッキが多色地形をかき集めて必死にやろうとしている事を、赤単色で完成させてしまっているとも言える。ゴブリンデッキを構成する各カードは、それ単体で見れば無害に思えるカードばかりである。あの《ゴブリンの戦長/Goblin Warchief》ですら単体では《スークアタの槍騎兵/Suq’Ata Lancer》にも劣る地味な存在でしかない。1+1が3にも4にもなる。これがゴブリンデッキの強さだと言えるだろう。
■4 カード・アドバンテージ
本来ビートダウンデッキはリセットカードを有するコントロールデッキに弱い。クロックを作るためにはクリーチャーを並べる必要があり、クリーチャーを並べればそれだけリセット一枚による被害が大きくなるからだ。ゴブリンデッキの場合、これを2つの方法によって回避している。
一つ目はクロックの大きさと言う点だ。単体でクロックの大きいカードを使えば、それだけ相手は少ないクリーチャー相手にリセットを使わざるを得なくなる。そうすれば結果的にこちらの被害は最小限で抑えられ、後続を展開する事も容易になる。《ゴブリンの群衆追い/Goblin Piledriver》はこの点において他の何よりも秀でた存在だと言えるだろう。
二つ目は《ゴブリンの女看守/Goblin Matron》と《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》の存在だ。後続が途切れなければリセットを恐れず展開する事が可能になり、それだけアグレッシヴに動く事が出来る。この二枚はそんな理想的展開を現実の物とするカードだ。《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》は赤い《嘘か真か/Fact or Fiction》とでも言うべき存在で、平均して2枚程度のゴブリンカードが手札に補充される。自身も2/2速攻と十分なスペックを持っているため、相手は遠からず除去を打つ羽目になる。そして、そんな《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》をデッキに8枚投入する事を可能とした《ゴブリンの女看守/Goblin Matron》の存在こそがゴブリンデッキに無類の柔軟性を与えている要因と言えるだろう。
■5 総論
以上、簡単ではあるがゴブリンの強さについて考えてみた。緑以上のマナ加速性能を誇り、息切れせず、デッキ全体がシナジーを形成している。その上事故りにくいと来ているのだから弱い理由を探す方が難しいだろう。今後もゴブリンデッキ対策は努々怠らないようにしたいものである。
■1 マナベースの安定性
ゴブリンデッキは非常にマナベースの安定したデッキだ。デッキの基本部分が赤単色で構成されているので色事故が発生し難く、それ故に基本土地を多く投入出来るので不毛の大地に対する耐性も高い。数あるデッキの中で、《不毛の大地/Wasteland》と《リシャーダの港/Rishadan Port》を両方とも4枚搭載する事の出来る稀有なデッキであると言う事実もそれを裏付けている。
また、ゴブリンデッキは《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》と《霊気の薬瓶/AEther Vial》を搭載しているため、他のデッキと比べ基本マナが低くなっている事もマナベースを安定させている一因である。基本マナとは「そのデッキが過不足なく機能するために必要な最低限度のマナ」の事で、ゴブリンデッキの場合、少なくとも《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》をプレイ出来るマナまでは到達する必要があるため、本来ならば基本マナは最低でも4と言う事になる。しかし、《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》と《霊気の薬瓶/AEther Vial》の存在によってこの基本マナは大幅に抑えられ、デッキの安定性向上へと繋がっていくのである。
■2 マナ加速の存在
マナ加速をする事で本来プレイされる事を想定されているターンよりも早く呪文をプレイする事が出来、それだけゲームを有利に進める事が出来る。これがマナ加速と言う戦略の基本的な考え方だ。ゴブリンデッキにおいては前述した《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》と《霊気の薬瓶/AEther Vial》がそれに該当する訳だが、この二種はマナ加速カードとしての性能が他のカードと比べて格段に高いと言える。マナ加速と言えば本来緑の領分であるのだが、その緑でも1マナのマナ加速カードで加速できるのは1マナまでであり、さらに能力を起動するためにタップが必要なので、マナを出しつつ殴ると言った芸当は出来ない。だがゴブリンデッキにおけるこれら二種なら話は別である。
《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》は殴りつつ手札の中で最も重いゴブリンを場に出す事が出来る。《ゴブリンの女看守/Goblin Matron》を場に出せば3マナ、《包囲攻撃の司令官/Siege-Gang Commander》ならなんと5マナも生み出した計算になる。これだけの超大幅なマナ加速を行いつつ、それ自身がクロックとして機能すると言うのが素晴らしい。《霊気の薬瓶/AEther Vial》は《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》と違い、それ自身がクロックとなる事は無いが、攻撃を通す事無くマナ加速する事を可能にし、さらにインスタント・タイミングでのプレイによる奇襲効果をも実現するのは脅威と言う他無い。
本来マナ加速と言う戦略は、マナ加速カード自体が擬似的な土地以上の働きをしないため、どうしてもデッキの中に含まれる実質的なスペルの量が少なくなる傾向にある。そのため戦力の枯渇を招きやすく、息切れしやすいと言う弱点があった。ゴブリンデッキではその弱点を最小限に抑え、その上でマナ加速としても最高級の働きをする二種のカードこそ、ゴブリンデッキの強さの根幹を支える核であると言えるだろう。
■3 デッキ全体で構築されるシナジー
シナジーとは相乗効果の事で、カードとカードを組み合わせることで本来以上の強さを発揮する事を指す。シナジーには俗に「縦」と「横」の二つがあると言われている。縦のシナジーとはカード単体同士によるシナジーの事を指し、横のシナジーとはデッキに投入されている各カードが、他の各カードとそれぞれシナジーを形成する事を指す。前者の代表はマッドネスであり、後者の代表はスリヴァーだ。縦のシナジーを中心軸としたデッキはブン回ると無類の強さを発揮する反面、引きが噛み合わないと標準以下のパワーしか出せない事が多く、強さにムラがある事が多い。それに対し横のシナジーはデッキ全体がシナジーを形成しているために強さにムラがなく、安定して強いデッキになる事が多い。
ゴブリンデッキは横のシナジーを形成するデッキだ。言い換えれば、スリヴァーデッキが多色地形をかき集めて必死にやろうとしている事を、赤単色で完成させてしまっているとも言える。ゴブリンデッキを構成する各カードは、それ単体で見れば無害に思えるカードばかりである。あの《ゴブリンの戦長/Goblin Warchief》ですら単体では《スークアタの槍騎兵/Suq’Ata Lancer》にも劣る地味な存在でしかない。1+1が3にも4にもなる。これがゴブリンデッキの強さだと言えるだろう。
■4 カード・アドバンテージ
本来ビートダウンデッキはリセットカードを有するコントロールデッキに弱い。クロックを作るためにはクリーチャーを並べる必要があり、クリーチャーを並べればそれだけリセット一枚による被害が大きくなるからだ。ゴブリンデッキの場合、これを2つの方法によって回避している。
一つ目はクロックの大きさと言う点だ。単体でクロックの大きいカードを使えば、それだけ相手は少ないクリーチャー相手にリセットを使わざるを得なくなる。そうすれば結果的にこちらの被害は最小限で抑えられ、後続を展開する事も容易になる。《ゴブリンの群衆追い/Goblin Piledriver》はこの点において他の何よりも秀でた存在だと言えるだろう。
二つ目は《ゴブリンの女看守/Goblin Matron》と《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》の存在だ。後続が途切れなければリセットを恐れず展開する事が可能になり、それだけアグレッシヴに動く事が出来る。この二枚はそんな理想的展開を現実の物とするカードだ。《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》は赤い《嘘か真か/Fact or Fiction》とでも言うべき存在で、平均して2枚程度のゴブリンカードが手札に補充される。自身も2/2速攻と十分なスペックを持っているため、相手は遠からず除去を打つ羽目になる。そして、そんな《ゴブリンの首謀者/Goblin Ringleader》をデッキに8枚投入する事を可能とした《ゴブリンの女看守/Goblin Matron》の存在こそがゴブリンデッキに無類の柔軟性を与えている要因と言えるだろう。
■5 総論
以上、簡単ではあるがゴブリンの強さについて考えてみた。緑以上のマナ加速性能を誇り、息切れせず、デッキ全体がシナジーを形成している。その上事故りにくいと来ているのだから弱い理由を探す方が難しいだろう。今後もゴブリンデッキ対策は努々怠らないようにしたいものである。
レスへのレス
2006年11月16日某所のコメント欄に意見を書いた所、それに対するレスポンスがあったのでそれに対する回答を書きたいと思います。
>黒男氏
社会が弱者を守るために存在していると言うのは建前であり、
現代・過去を問わず社会が力によって動かされ、強者によって
弱者が不当な圧力を受け続けてきたと言う事実は揺るぎません。
声高に理想論だけを叫んだ所で、それが何の解決になりましょうか?
現実的に見て、社会が強者を迎合し、弱者からの搾取を是としている事は
明らかのように思えます。故に各人は自己の生命・財産・権利を守るために
力を持つ必要があり、「NO」と言える強い意思が必要だと思うのです。
我々が生きているこの社会は薄汚れていて荒廃した弱肉強食の世界であり、
理想論がそのまま通用するような理想郷では無いと言うのが私の見解です。
いじめに関してはアラジン氏がブログ内で紹介されていた
下記の文章が非常に秀逸だと思います。
論の立て方から筋道の通し方まで非常にスマートで、
内容に同意するのは勿論の事、こんな文章が書けたらいいなと
あこがれてしまいました。
>黒男氏
社会が弱者を守るために存在していると言うのは建前であり、
現代・過去を問わず社会が力によって動かされ、強者によって
弱者が不当な圧力を受け続けてきたと言う事実は揺るぎません。
声高に理想論だけを叫んだ所で、それが何の解決になりましょうか?
現実的に見て、社会が強者を迎合し、弱者からの搾取を是としている事は
明らかのように思えます。故に各人は自己の生命・財産・権利を守るために
力を持つ必要があり、「NO」と言える強い意思が必要だと思うのです。
我々が生きているこの社会は薄汚れていて荒廃した弱肉強食の世界であり、
理想論がそのまま通用するような理想郷では無いと言うのが私の見解です。
いじめに関してはアラジン氏がブログ内で紹介されていた
下記の文章が非常に秀逸だと思います。
論の立て方から筋道の通し方まで非常にスマートで、
内容に同意するのは勿論の事、こんな文章が書けたらいいなと
あこがれてしまいました。
http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20061113/p1